・はじめに
ジャンドを使っているプレイヤーなら誰もが持つ悩みとして、「この初手はマリガンするべきなのか、しないべきなのか?」というものがありますね。

かくいう私もジャンドを本格的に使い始めてまだ1ヶ月ちょい(身内のテストプレイ用に一応環境初期から申し訳程度に使ってはいた)なんですが、練習や大会で負ける度に感じるのが、「トップメタならではの対策のされっぷりで負けた」というのと同程度か、それ以上に「適切にマナを引かなくて(要は事故って)負けた」というものなんですよね。
手札のパーマネントや、上から引いてきたカードのうち数枚でも適切なターンにプレイできれば展開負けもしてなかっただろうし、除去で捌けてもいただろう・・・という負け惜しみに陥ってしまうことが多い。いや、これはどんなデッキ使ってても必ずあることなのですが、なんかジャンドは異常に多い。気がする。

これではあまりにも精神衛生上悪く、しかも構造上仕方ない問題なのか自分のミスなのかの判断を誤っていた場合には今後のプレイスキルにも悪影響を及ぼしそうなので、ここらで久々に考察記事を書く必要があると判断しました。

幸いこの分野には先行研究も多く、ジャンドというデッキ自体の使用者も非常に多いので、自分の考察に欠陥があった場合にはすぐさま訂正が加えられることを期待できます(先日の記事ではAKKAさん、ありがとうございました)。

今回の考察ではその特性上、確率の理論を多用します。
基本的に数A履修程度の確率の知識があれば誰でも理解できる話になるはずです。ていうか自分も文系人間なので高校数学までの知識しかありません。
考察を行うにあたり、「MTG覚書」様(http://blog.livedoor.jp/thmt/)の議論を数多く引用させていただきます。また、同氏による計算スクリプト(http://mtgcalc.client.jp/)も活用させて頂く予定です。スクリプトを利用した場合計算過程は省略しますが、自分で立式した場合は間違いをチェックして貰えるように書いておきます。

・土地の総数と色マナ配分
まず土地の枚数ですが、これは25枚が適正ということで問題は無いと思います。4マナを4ターン目に出すためには土地24枚が最適なのですが、ジャンドは5~6マナ域にも少なくない数の重要スペルが含まれています。
ところで最近は《瀝青破》メイン4積み、少なくとも3積みが主流なようですね。自分は多くても3、けっこう2枚にまで絞ることもあるのですが、3枚以上積みたい具体的な理由を御存知の方がいらっしゃれば教えて頂ければ幸いです。今のところ、同系とのアド勝負+群れドラ片割れを除去、くらいしか思いつきません。

閑話休題。
ここらで一度どのデッキをサンプルとして用いるかを決めなければ議論が面倒になりますので、とりあえず自分が先日のスペシャル予選で使用したものを前提として話していこうと思います。デッキリストはこちら:(http://police.diarynote.jp/200911301423146149/
先週~今週流行のギャンコマも入っておらず、除去の配分もやや特殊ですが、主眼は「土地2~3枚でマナスクリューして死ぬかどうか」という所なので、細かい点は気にしないでください。

土地に関して見ると緑マナ源は16、黒は14、赤は13。ちなみに、MWSを用いてジョージ・バクスター解析(George Baxter Analysis、参考:http://blog.livedoor.jp/thmt/archives/51044704.html)を行ったところ、このメインボードだと色マナ比率の重要度は緑:黒:赤=15.93:14.76:17.8 でした。
当日の朝に狩りの達人を入れ直したので山を1枚森に戻したのですが、それでも圧倒的に赤マナの重要度が高いことがわかります。というわけでそもそもデッキ構築のマナ配分そのものを間違えていました。
直すとすれば、
4《野蛮な地/Savage Lands》
4《新緑の地下墓地/Verdant Catacombs》
3《根縛りの岩山/Rootbound Crag》
4《竜髑髏の山頂/Dragonskull Summit》
2《巨森、オラン=リーフ/Oran-Rief, the Vastwood》
2《森/Forest》
2《沼/Swamp》
4《山/Mountain》
・・・こんな感じでしょうか。
これだと緑:黒:赤=15:14:15になります。・・・赤の比率が若干低いですが、これ以上赤マナを増やそうとするとM10ランドか山の枚数が過剰になってしまうので微妙ですね。個人的にはM10は7がギリギリだと思うので。できれば6にしたい。
しかし普通は沼3で山3の配分がメジャーだと思うのですが、赤マナのことを考えると本当はこれくらい山がいるんですね。
自分のデックが終止4積みのせいで赤が濃いだけか、と思いましたが、世間ではギャンコマというもっと赤々しいカードが3~4投入されているわけで。続唱からめくれるわけでもないので必ず素プレイを考慮しなければいけませんし。・・・しかも7マナでプレイする時は赤赤赤が前提になりますから、もっと赤が濃く必要になりますね。大丈夫か?

・キープ?マリガン?
続いて本題であるところのキープ基準に移りましょう。デッキ構築時点でミスっていたという上述の話はちょっと脇に置いといて、とりあえずはさっきのレシピで考えていきます。
デッキ60枚中に赤マナの出る土地は13枚(タップインorアンタップインは面倒すぎるので考慮しません)。3マナ域で、プレイさえできれば色マナがほぼ完全に揃うレインジャーも、3ターン目以降は好きな色マナを引いたのとほぼ同義にカウントすることができます(若干展開速度に影響は与えますが)。

それでは、実際に初手で貰ったときにマリガンを悩みそうなハンドについて具体的な例を与えつつ、考察していきましょう。

ケース1:土地は緑単色マナ1枚含む2枚しか無く、レインジャーも無いがトリナクス、血編みなど3マナ以降は充実している場合
#いわゆる「あと1枚土地引けばなんとかなりそう」な初手。ジャンドに関してはこのフレーズが罠っぽいイメージがあるので直感的にマリガンする人も多いのではないでしょうか?
2枚目の土地が《野蛮な地》ならば3枚目の土地は緑単色土地以外ならほぼ何でも良く、もしかしたらキープもできるかもしれませんが、4マナ域へのアクセスが気になるところです。

・試算結果
初手土地2枚で3枚目の土地を引く平均ターン:約2.8
3~4ターン目に3枚土地が揃ったとして、そこから4枚目の土地もしくはレインジャーを引いてくるターン:残り49~50枚中、22+3=25枚のうち1枚を引ければ良いので平均的に約2ターン
1マリガンして土地が3枚以上来る確率:49.2%

「平均的には後手なら3ターン目、先手なら4ターン目には3枚目の土地を引き、その2ターン後には4マナ目を入手できる」ということになりますね。
思ったより絶望的な数字ではないことにちょっと驚きました。ただ、引いた土地がタップインだったり、3マナで停滞している時に土地ではなくレインジャーを引いた場合は1ターンさらにテンポロスが発生します。6~7ターン目に4マナ域をプレイ可能になる、という感じですね。さすがに厳しいか?
ただ血編みは実質的に追加の1~3マナ+1枚のカードアドバンテージによって、ほぼ追加ターンに等しい威力を持っています。6ターン目までもつれると流石に厳しいですが、1~2マナの除去があり、なおかつ3マナ目を引いたときに何かしらプレイできるスペルがあるのなら、多少のテンポ差は取り返せる気がしますね。

ちなみにマリガンを1回すると初手に来る土地の期待枚数はちょうど2.5になります。というか、そもそも初手7枚でも土地3枚が必要ならば土地は26必要(25枚だと期待値2.92程度で、ギリギリ3枚に届きません)なわけで、「初手に土地が3枚無いからマリガン」というのは実は間違いなのかもしれません。

ついでに初手にレインジャーがあるパターン(緑含む土地2枚、レインジャー1枚、赤マナ無しの初手)も考えておきましょう。
初手の土地が2枚で、3枚目の土地を引くための所要平均ターンは前述の通り2.8ターンです。この場合土地なら何でもいいわけですから、後手なら3ターン目、先手でも4ターン目には土地を引くことを期待しても問題なさそうですね。そして、この手札では3マナ域に届くことが4マナ域に届くこととほぼ同義なので、先程の場合よりも当然ながら高い評価を与えることができます。
少なくとも土地の枚数、という観点ではキープと宣言して良いでしょう。

ケース2:先手で、緑マナ含む土地3枚が初手にあり、トリナクスや血編みはあるが赤マナが出ない場合
#ここからは自分が実際に日曜日に遭遇したケースです。いわゆる「土地は足りてるけど色マナ足りてない」初手。自分はこのハンドを「赤土地かレインジャーを引ければ良いからキープ」としました。
実際はハンドに1枚だけパルスがありましたが、まともにゲームをするためには赤マナが必要不可欠なこのハンド。マリガンするべきだったのでしょうか?

・試算結果
残り53枚のライブラリーに16枚含まれている赤マナへのアクセスを・・・
先手3ターン目(つまり2回ドローする)までに少なくとも1枚引く確率:1-(37/53 ×36/52)=約0.52
先手4ターン目までに少なくとも1枚引く確率:1-(37/53 ×36/52 ×35/51)=約0.67
つまり、このハンドでマリガンしなかった場合52%の確率で3ターン目にはレインジャー、もしくはトリナクスをプレイできつつ4ターン目に血編みをプレイ可能で、67%の確率で先手4ターン目には4枚目の土地を何らかの方法で入手できる(そのうちほとんどの場合は血編みもプレイできる)ということです。

では、マリガンした場合についても考えてみましょう。
赤マナが出ないという理由だけでマリガンするのですから、マリガンした結果土地が2枚になり、相変わらず赤マナは出ない・・・という場合は当然ダブルマリガンすることになります。逆に、マリガンした結果土地が2枚で、赤マナは出るという初手は「マリガンの目的を果たした」として当然キープします(ダブルマリガンして土地が3枚以上来る確率は約34%しかない上に赤マナが来る保証もありません)。

スペルの配分まで考えると自分の頭では処理し切れないので、マリガンして赤含む土地が4~2枚来る、つまりスペル枠は2枚確保した上で赤マナを引ける確率のみを考える、というように単純化します。

・試算結果
場合分けして計算した結果、この確率は0.6611・・・およそ66%になりました。つまり、マリガンする前の状態で4ターン目に4マナ揃う確率とほぼ同じですね。ただ残り34%でダブルマリガンするわけですが、ダブルマリガンした時に赤マナを含む土地が3~2枚来る確率は0.5070・・・およそ51%です。
従って、ダブルマリガンまで含めると「赤マナ含むハンドで、スペル2枚以上」の初手でスタートできる確率は、0.66+0.34*0.51=0.8334。およそ83%にまで上昇します。かなり高いですね。
ちなみにこの試算結果は「赤マナ含む土地2枚」という条件でキープする条件に「山2枚」の場合を含んでしまっていますが、3枚しか入っていないカードを初手に2枚引き、なおかつ他の土地を引かない確率なんて1%にも満たないので気にしなくていいでしょう。

より大きな問題は2つあって、1つめはマリガンしてハンドに入ったスペルが(相手のデッキに対して)弱かった場合。具体的にどのカードを引ければOKなのか、ということは断定できないのでなんとも言えません。ただし、トリナクスや血編みが揃った完璧なハンドが欲しいなー、という願望はほとんどの場合、満たされないと言っても過言ではないでしょう。
2つめの問題は、今回の試算はあくまで赤マナを確保しつつ最低限の土地を貰える確率を求めただけだということ。例えば土地2~3の状態から4マナまで伸ばせるかどうかはまた別問題になります。

この2つはわりあい大きな影響を与えそうなファクターで、83%という見た目の大きさに騙されると危険かもしれません。あくまでこれは「ダブルマリガンまで含めると、少なくとも赤マナには困らずにスタートできるハンドが来る確率」ですからね。
それに比べてマリガンしなかった場合は先手3ターン目には52%、4ターン目には67%で「十分デッキが回る」ことが期待できる(ちなみに5ターン目なら77%でした)わけですから、直ちにマリガンすることが正解とは言えないのではないか?と思います。皆さんはどう思われますか?

※確率の計算や式設定が間違っている可能性があります。気付かれた方はコメントにてご指摘頂ければ幸いです。

コメント

AKKA
2009年12月1日23:56

とても面白かったですwお疲れ様です。

>2つ目の問題
 これが「勝つためのマジック」としては一番重要ですね。ジャンドカスケードというデッキはポリスさんが↑で書かれている通り色マナが大切なのですが、デッキ自体が非常に重い構成をとっているため、それと同じくらいマナの量も大切ですからね。ゲームを出来る程度でしたら、3マナ4マナがあればいいかもしれませんが、ゲームに勝つには5マナ6マナ目が必要不可欠(オランリーフのことを考えるとさらにマナがほしいですね)ですし。

今回のエントリを読んでかなり心に響くものがあったので、自分でもより一層悩んでみたいと思います。ファイナルズ本戦までには自分が納得がいく解答を見つけたいものですねw

ポリス
2009年12月2日19:07

>AKKAさん
今回の考察は3~4マナへの到達に主眼を置きましたが、確かにこれは「ゲームをできる程度」のマナ数に違いありません。5~6マナまで考えるとさらに確率の壁をくぐり抜けなければいけませんね。

新環境ジャンドの国内先駆者であるAKKAさんと意見を交わせて嬉しい限りです。もし何か新たな解等が得られた場合には、公開可能な範囲で構いませんのでその成果を報告して貰えれば幸いです。

切望する者
2009年12月3日21:43

少々遅れましたが20万Hitおめでとうございます(´∀`*)ノノ

これからもポリスさんの詳しい考察記事楽しみにしています。今回の記事も実際に計算したことは無かったので非常に参考になりました!

nophoto
たーは
2009年12月4日14:52

>67%の確率で先手4ターン目には4枚目の土地を何らかの方法で入手できる(そのうちほとんどの場合は血編みもプレイできる)
アンタップインの赤マナが6枚しかないことを考えると4ターン目に血編みをプレイ出来る確率は6割に満たないです。
面倒でもタップイン、アンタップインを考慮しないと確率を持ち出す意味がありません。
適当に確率を出す行為は間違った裏付けを信じる事に繋がるので、確率計算をしないより悪です。

ポリス
2009年12月7日23:05

>切望さん
ありがとうございます。気付かない間に20万ヒットしてましたw
ここ最近はジャンドばかり扱っていて去年のようなローグデック的な面白さは無いと思いますが、色々と考察していく予定です。

>たーはさん
自分が遭遇したのは森と沼の両方を持っている状況だったので、それを前提で話を進めていました。確かにこの書き方だと誤解を招きますね。御指摘ありがとうございます。
まあ4ターン目に血編みをプレイできる確率を求めることではなく、「土地2~3枚で止まってゲームにさえならなくて死んじゃう」のを回避できる大体の確率はどんなもんかな、という考察なので大目に見てもらえたらなー、と思います。

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索